生きるために食べるというより、食べるために生きるというスタンスで意欲的に生き抜く家族なもので、食事のサイクルに計画性が強い。普段は慎ましやかな修行食レベルで体の栄養を摂り、週に1回は好きな物を食べ心の栄養をじゃんじゃん摂る。そのために切磋し合いメラメラと賑やかに過ごしている。極限の解放感を味わうべく最近では土曜日に「その日」を充て、日曜日はしっかりと内臓を休ませまた月曜日から各々もりもりと頑張れるようにスタイリングしたものだから、いよいよタガの外し方がすごい。満腹にだけはならないように気をつけているものの、ごはんはもっさもっさ食べ、おやつも抜かりなく食べ切る。悔いがあると1週間をもんもんと過ごすことになるのだから力が入るというものだ。さて5歳になる娘の食への関心というのはかなり優しめの採点でいっても常軌を逸しており、その度合いはこの世に誕生してから今の今まで景気良く暴走し続けている。病院の先生に苦笑いされるほどの肥満も経験したし、街中に出れば人間よりもその人間が手にし口にする食べ物飲み物に全身のレーダーが向き切り、呼んでも全く応じられない。食物観察が過ぎる。飲食店に入ったら入ったで自分の分け前に全集中するのかと思いきや、両親が食べる物も気になってしまうから結局食べ物に翻弄され続けてひとり忙しなくしている。動物占いによれば我が家は「何を」食べるかが大事なコアラ父と、「どこで」食べるかが大事なライオン母と、「誰と」食べるかが大事なひつじ娘という構成なのだけれど、娘は明らかに家族の会話より料理の動向を追いかけ続けている。さてはひつじを被ったオオカミか…?全食べ物への関心が監視カメラレベルだなもう。…と、娘の食欲プロフィールを皮肉気味に書いてしまったのだが、実はこのやる気活気が盛んすぎる食欲は何を隠そう母譲りである。子どもの頃から食べることが好きで周りから底なしの胃袋タイプだと評価されてきた私だけれど、最近になってそのレベル感がこの娘を超えているかもしれないことに気付いた。私は週も半ば、水曜日くらいになると土曜日への期待で胸の辺りがそわそわし出し、「あ〜土曜日何食べよっかな〜」などとひとりつぶやいていたりしてハッとする。あの娘でさえ平日は質と量を徹底的に管理された食事を黙々と摂ってやるべきことを粛々とこなし、「ね〜土曜日何食べたい?」と聞いても「その時の気持ちによる」とわりとさっぱりしていて食欲旺盛さにもいろいろなタイプがあるのだなと考えさせられる。おそらく私は四六時中食べ物のことを考え気持ちを高める食の計画型で、娘は視界に入った食べ物に全力で反応する食の瞬発型なのではないかと一旦納得する。まあどちらにしても元気いっぱい食いしん坊であることには違いないのだけれど、ついこの間、私の方が堂々食いしん坊であることを決定づけるような事件が起きた。
それは義実家でおばあちゃんのお誕生日会をした土曜日の夜のこと。帰宅すると、お酒に強い私がずっぶずぶに酔っ払ったような真っ赤な顔を装備しており、よく見てみるとまぶたのところに針で刺したような小さな赤点が出現していることに気付いた。しかもその赤点はお腹の辺りと二の腕にも現れていてピンと来る。これは糖質の摂りすぎではないか…?実はちょっと前に、有名なドクターが「お腹辺りに出る赤い斑点の原因は糖質の摂りすぎです」と甘いものが好きな人々へ注意喚起するような動画を配信しているのを見て、だいぶ前だがみぞおち辺りにちょんとできた赤点が消えない悩みをぼんやりと持ち続けていた私は原因がわかってほっとした。若い女性患者さんが「甘いものやめられないんですよね…」と自身の腹部に出た赤点を診察されていたのだけれど私のと全く同じで「そうそうこれこれ!」と何もかも知らぬ人ではあるが共通点が嬉しくて覚えている。その動画でドクターは「二の腕にもできたりするし、あ、二の腕には出てる…。糖尿病一歩手前くらいまでいくと首の後ろにしこりができたりします。今のところ大丈夫そうですね」とうつ伏せになる患者さんの首を触診する。「あ、よかった〜」と胸をなでおろす患者さんに「いや、だからって甘いもの食べていいわけじゃないからね」と控えめに突っ込んだドクターは、「血糖値を下げるなら毎日もやしを食べましょう。酢と一緒だと効果が高いのでもやし炒めをぽん酢で食べたりとか」と、それならば取り組みやすいぞと思わせる家計に優しく具体的なアドバイスをくれたから以降我が家ももやしフィーバーだった。ドクターによれば、1ヶ月も続けたら変わるということだし、赤い斑点も徐々に減っていくということだったのだけれど2週間くらいで挫折した。週に1回どっさり買い物をするスタイルの私に、日持ちしないもやしは申し訳ないが相性が悪かった。最初のうちは1日2日すぎても大丈夫!と生き生きと調理し、たくましくもっしゃもっしゃ食べていたのだけれど、だんだん「もう賞味期限だ早く食べなきゃ早く食べなきゃ」とのんびりしていられない感に苦しくなってしまった。かといって頻繁にも買いに行けず、いや本当は買いに行けたのだろうが行かない理由を探すことにむしろ一生懸命になり、ぞんざいな扱いを受けたもやしは静かに去っていった。ごめんよ、スピード勝負に私は弱い。それにしても、今回初めて出た顔が赤くなるというのは糖質摂りすぎに関係しているのかどうかを調べてみると、脂質や糖質の過剰摂取が赤ら顔として出ることがあるとの記述が堂々とあり、1%でも無関係の可能性を信じた自分に笑った。体はちゃんとサインを出してくれていたし、その原因が週1のドカ食いにあるだろうことも知っていたけれど、それでも私は止めなかった。アクセルベタ踏みのままがつがつと、意気揚々と果てた。自業自得だ。やっちゃいけない方に限界突破すること、それが病気よな。症状が何も出ていない2人を見ると、結局ドカ食い食いしん坊は私だけなのだと気付きおたおたする。
娘が寝てから真夜中、大人2人でこれはさすがにまずいよねと緊張した面持ちで話し合う。なんせ偶然というにはあまりにミラクルなタイミングで昨日、「3人で長生きしようね」と娘に言われたばかりだったのだ。「うんうんしようぞ、長生き!」と涙ながらに答えたのにこの有り様はなんとひどいことか。何が何でも健康にならねばなるまいと鼻息を荒くする。お菓子、特に甘いもののドカ食いというのは血糖値を一気に上げ、もちろん肥満にも繋がりやすいし、今回みたいに血管が傷つき赤点となって出るくらいのことが起こりやすい。であれば、一旦甘いものを含む全てのお菓子や飲み物を断ち、週1のご褒美を月1にしてみたらどうかと提案を受ける。日々の糖質コントロールも頑張ることで徐々に体が変わり、ドカ食いに選ぶおやつの質が変わるかもしれないし、程度も抑えられる可能性が高いんじゃないかとも。そうかそうかそれもそうか、いや本当か?ドカ食い界のエリートがこの才能を封印して生きていけるのか…?毎週このために生きてきたんだよ…!?なのに年に12回しかドカ食いができないなんてさ、そんなの生き地獄じゃん…と、頭では理解しているのに心がやんややんやして「でもお菓子食べたいぃぃぃぃぃ」と机に突っ伏する。さっきの威勢はどこいったよ…。私という人間は食べる時は食べる、食べない時は食べないという爆食モードか断食モードの二択で生きるようなところがあって、軽くつまむみたいな芸を全く持ち合わせていないため、エネルギー補給で少しだけみたいな食べ方ができない。一旦食べてしまったらスイッチが入ってしまって「ダメダメ!もう止めときなって!」と踏切音が鳴っているにも関わらず突っ走ってしまう。ドカ食いという生命維持システムを搭載した生物であることをはっきり自覚しおんおんする。いや思ったけど私、娘の瞬発型の要素も入ってるじゃんよ…。2時間くらい話し合った末、「ではそうしようか、そうするしかないのだよな」とうなだれていた首をなんとか縦に振る。できる限り糖質を抑えた生活と、月1限定かつライト級ドカ食い開催がこうして決まった。「未来永劫そうしなきゃいけないわけじゃないんだし、とりあえず3ヶ月くらいやってみようよ。一緒に頑張るよ」とうひうひ励まされ、相方が健康志向スイッチの持ち主かつ中庸を歩む人でほんとに良かった。腹が決まると案外ピシッとして、家の中にあるお菓子のストックやエネルギー切れの時にちょこちょこ飲んでいた甘いカフェラテをうやうやしく奉納する。(我が家では忍びない処分のことを奉納と呼んでいる) さて大人2人が頑張るということは小さい人にも頑張ってもらわねばならないわけで、現状とこれからの方針について明日話そうと決め布団に入る。
翌朝、みんなの頭がしっかりした頃に「ちょっと大事なお話があるんだけどいい?」と娘を呼ぶ。「えっ大事な話!?なになに!?」とわくわくに振り切った様子を見ると心が痛んだが、ちゃんと受け止めてもらうには凛とした態度でやや厳かに、けれど和やかな雰囲気も出しつつ伝えねばならぬなとぐっと腹に力を入れる。「実は、甘いものの食べ過ぎでまーむちゃんは体に赤いポツポツができてしまいました」と神妙に話すと「赤いポツポツ?えっどこどこ!?」と聞くのでお腹と二の腕を見せる。想像したものよりはライトな見た目だったからか「ほんとだ〜」と娘の表情は和らいだ。「でね、このまま甘いものを食べ続けるとこれがもっとひどくなったり、最悪病気になるかもしれなくて、そうなると健康じゃなくなるから長生きするのが難しくなっちゃうんだよね。みんなで長生きしようって話したじゃん?」と伝えると「うんうん」と、たちまちその話ですよね的な重要性を含む顔つきになってこちらも気が締まる。「だから今は1ヶ月に4回みんなで甘いものを食べてるけど、それを1ヶ月に1回にしたいと思います。なので次は来月、1ヶ月後になります」と、はいここぞ本題ですとばかりに礼儀正しく打ち明けると、意外にも「わかった」とあっさり受け入れられ、全力パンチしたのにそこに何もなくてスカったみたいな気持ちになる。目的を果たすためならわりかし頑張れる人ではあるけれど、ここまでの飲み込み力があったのかとじわじわ驚嘆する。
さて、糖質コントロール生活が始まって私の生活はがらりと変わり、最初は気持ちがめそめそして耐え切れるか危うかったけれど、私の脳内をいつ覗き見たのかAmazonが「ドカ食いダイスキ!もちづきさん」という漫画をおすすめしてきたから読んでみると、もちづきさんの食へのたぎりっぷりが自分そのものすぎて元気が出た。もちろん食べっぷりもレベチで、食べていないこっちまでがっしがっし発散できてしまいめちゃめちゃ救われた。救われたといえば、娘は私の本当の気持ちを汲んでかもともとの優しさを超えて優しい。全てのお菓子を奉納したと思っていたところ、娘と一緒に買って次のお休みに食べようねと話していたじゃがりこのベーコンバター醤油味が素焼き大豆の下からのっそり出てきたから、これはもう長いこと食べられないし娘にあげようと娘専用のお菓子コーナーへそっと入れる。すると次の日、私専用のおやつカゴで静かにしており「おぉっ…!?」と声が出る。確かに入れたよな…?これはもう娘ちゃんのよ普段のおやつに食べなよという気持ちでもう一度沈黙の贈呈をしてみると、なんとまた戻ってきていよいよ笑った。次の解放日に食べなよ、いや一緒に食べようよというメッセージかなと有り難く頂戴し、何よりあえて何も言ってこないところがいじらしいしコントの前フリみたいで娘らしい。普段、娘は幼稚園から帰ってきておやつを食べるのだけれど、食べられない私に気を遣ってかたたたーっとやって来て「まーむちゃん!ちょっと食べてごらんおいしいよ!」とずいずい差し出してくれる。「ごめんよ〜今は食べられないんだよ〜」と遠慮しても、「えぇぇぇ一緒に食べたかったのにーちょっとちょっと!」とちょっと食べてごらんが盛んすぎる。ありがとう本当に。どうしても食べられないならばと、この前はおままごとをひっくり返し和菓子スイーツのスペシャルセットをUberしてくれ、「このいちごのお団子は、お砂糖を使ってないので大丈夫です」と、圧巻のおすすめ力とお客に合わせた配慮がぶっちぎりで感服した。さすがは食ラバー!
結局、糖質コントロールを始めてからもう少しで1ヶ月経つけれど赤点は未だ消えず、だけど肌の表面のざらつきは消えてつるりとした。食の質が1番のスキンケアということか…と、まあそうでしょうというある程度考えればわかるようなことを大げさに噛み締めて天を仰ぐ。30代ともなると、良いものをちょっとだけという思考に変わりめきめき研ぎ澄まされていくようなイメージでいたし、大半の30代はそうなのかもしれないが私の食欲は21歳のもちづきさんとほぼ一緒だ。お腹が空いたとハアハアし、食を考えてもハアハアし、いざ喰らうとかっ込んではハアハアする。読みながら、コントロールできない何かがうごめくさまをありありと想像できるし、たぶん娘もそうなのだろうな。
第一回ドカ食い祭りを平和に終えられるのか、素焼き大豆を貪りながらじゃがりこ横目に今日も生きる。











