5歳児と、新幹線6時間の地「長野」へ行く。それでも、きれいに満ちていた。

新幹線に乗る女の子

3月末、娘の春休みを利用して、旧友に会いに長野へ飛んだ。飛んだと言っても、実際は新幹線。広島→東京の4時間と、東京→長野の2時間を、線路を継ぎ足すようにして向かった。1年振りの旅に、5歳の娘も1週間前からはしゃぎ出し、るるぶを開いては、「おいしそうだね〜」と、未来の食欲に火をつけていた。
3泊4日の、家族3人旅行。まとめると、「食欲にめいっぱい揺さぶられた旅」。たぶん、だいたい、ずっと何か食べていた。娘にとって、長野は初めての地。私も小学生以来で、当時は車移動だったし、りんごを狩るという催しのためだったから、長野駅も、長野観光も実は初めて。

1日目。娘は降り立つなり、「わあっこれが長野?!すってきー!」とぴょんぴょん跳ね、リュックを驚かせた。どこか、地元の新潟にも、広島にも雰囲気の似た長野は、新幹線6時間分の疲れを一気に吹っ飛ばしてくれ、私は指をはしゃがせて親友にLINEを飛ばした。
駅は土産物が充実しており、りんごのスイーツはもちろん、野沢菜や味噌、ワインが、我こそ信州名物と言わんばかりに主張してきて、目移りが止まらない。流れのままに、粋な立ち飲み屋で樽生シードル。大人は辛口にきゅっとされ、娘はポテトサラダにまるっとつかまれる。腹が「買え買えー!」と騒ぐから衝動買いしてしまった、信州有喜堂の「揚げ煎甘辛みそ」も開封。めりめりと歯が食い込み、同時にあまじょっぱさが脳をぶんぶん揺らしてきて、がっちり心をつかまれた。
夕飯は、野菜を求めて「長野県長寿食堂」へ。焼き野菜が甘くてしたたかで、おすすめされた鶏肉の山賊焼きは、噛むたび活力が一気に流れ込んできた。娘もストレートをくらった顔で、箸が忙しい。片隅でちょこんと構えていた米味噌は、主役級の旨味で口いっぱい占拠してきて、もうジャーごといきたい気持ち。
なんとか本日を「健康」に締めた我々だけれども、むしろ健康になった分「行け行けーい!」と豪快なゴーが出て、しっかりりんごプリンとアイスを連れ、ホテルでスイーツタイムまで完遂。初日を楽しみ尽くした。

2日目。善光寺近くにある室内施設、「ながノビ」へ趣いた。旅の間、雨続きだった場合に備えて仕込んでおいた、娘へのボーナスタイム。「森のたんけんひろば」と「宇宙アスレチック」を行き来して、昨日なまりかけた体を起こすように遊んだ。「まいたけちゃんも一緒に遊べる!?」と、きらっきらに振り向く娘に、ものすごく遊びたいが12歳以下が対象だから遊べないのだと伝えると、「え!まいたけちゃんもう12歳過ぎた!?」と、風圧を起こして驚いた。「知らない」ということが、こんなにもまっすぐ輝く。
お昼には善光寺仲見世通りで信州そばを食べ、五平もち、野沢菜おやきを経由して、お戒壇巡りへ。暗闇に飲まれて、娘と一緒にプチパニックしながらも、どうにか極楽の錠前に触れ、仏様にご挨拶できた。
おのおの「新しい自分」で、県立美術館のムーミン展へ行くと、ムーミン家族のぶっ飛びようが遠慮なく繰り広げられており、パパと一緒に盛り上がった。
この旅で「食欲をすみずみまで満たすぞ!」と団結していた我が家は、信州カスタードアップルパイ、ソフトクリーム、どら焼き、マドレーヌと、底なしで食べ歩き倒し、内臓をぎょっとさせた。長野の地に来て、全部がおいしい。しかも、お店の人はみんな、友だちの一歩手前みたいな距離感で、優しい。気を朗らかにした大人は、ワインのお店でシードルを飲み比べ、小人は本場のりんごジュースで堂々と並ぶ。試飲させてもらったワインは、もうぶどうそのものの降臨。最高。
存分に満たされておいて、夕飯にはきっちり勇む。ふらっと入った見晴らし抜群の和食やさんは、ナンコツの味噌焼きも日本酒もおいしすぎて、長野、ずるい。ここまで「最高」を更新してくる場所、他にあっただろうか。
娘が寝てから静かに一杯やり、「明日はいよいよ、この旅の本命だぞ」と、あのワインを思い出して、閉じた。

3日目。午前中、美術館隣の城山公園で弾けた後、待ちに待った親友宅の訪問。会わないうちにお母さんになっためいちゃんは、0歳児に翻弄されている気配なんてどこにもなくて、会った瞬間、元気をもらった。そうそうこの感じ。娘は、3年前に広島で抱っこしてもらった記憶を辿り、すぐ懐いて嬉しそう。
さて、話に聞いていた通り、レイくんの育ちは見事にアメリカン。小顔に、すらっと長い手足。ハワイ出身・2m級のアイクの血がごーごー流れていた。みんなで、めいちゃんお手製のちらし寿司を頬張り、初めての切干大根おやきにほっぺを落とし、娘はお菓子セットをもらってにやにやが止まらない。我々も、レイくんにと選んだ贈り物を渡す。まさかまさか、アイクが同じブランドの洋服を着ていたから、奇跡的すぎて、場のご機嫌が一気に跳ね上がる。初めましての来客に涙が止まらなかったレイくんも、最後は大地まで少し揺れそうな、キュートな笑顔を見せてくれた。小人同士の遠慮がちなやり取りは、むずむずするほどかわいくて、尊くて、この感じごと、そっくりそのまま持って帰りたい。家族が増えて、子どもが育っていくことの楽しみが、まるごとここに詰まっていた。
長野、最後の夕飯。天ぷらもりもりそばで、体内に長野を閉じ込める。くるみだれの舞には、誰もが目を見開いてすすった。味覚だけで芸術性を感じられる食べ物ランキングがあったら、間違いなくトップ3に入る。来世で双子が産まれたら、そばちゃんとくるみだれちゃんと名付けたいくらい、このふたりはひとつでいい。
夜。大人は、シードルと、少しの寂しさに揺られた。

4日目。最終日。旅を畳む準備をしながらも、「今日、本当に広島に帰るのかなあ」と、どこか遠目な自分がいた。それくらい、長野はすっと馴染んで、「帰省先」くらいの存在になった。
3日間、駅ビルをくまなく歩き、ちょこちょこお土産を買い溜めてはいたけれど、最終日もちゃんと買う。昨日もおとといも見たはずのものが、なぜか全部、もう一度新鮮に、おいしそう。
6時間の移動中、それはそれは食べた。駅弁にサンドイッチ、カレーパンに甘味。家で開けるつもりが、長野を惜しむように、七味唐からしえびせんべいとシャインマスカットグミも貪った。
とうとう広島に着くと、娘は急に広島愛を燃やし、もみじ饅頭を求めた。長野に棲みつきたいばりの情熱は、広島の風を浴びると同時に、ホッとして風化した。旅とは、日常のまぶしさを、後から全身で受け取りにいく時間なんだと思う。そんなにお腹は空いていなかったけれど、もみじ饅頭も、駅ナカのレモンサワーと焼き鳥も、3人の中でちゃんと光った。
夜。あの白ワインを開けて、旅をゆっくりなぞり直す。長くはないが、決して短くもなかったこの行脚。ほぼ、食べているか、移動しているか。それでも、きれいに満ちていた。
正直なところ、行きも帰りも、広島と東京をつなぐ新幹線4時間は、体が棄権しそうだった。行きは小さい人と2人。指定席は1つ。隣が来るまで半分こで座ったり、膝に乗せたり、後半は娘に席を譲り、私は特大荷物スペースで娘のつむじを眺める係。5歳児のサイズ感で「2人1席」は、HPが倍速で削られる。赤ちゃんの頃とはわけが違った。帰りは帰りで、そもそものHPが半分スタートだから、座っているのも立っているのも居心地がぴたっとこない。結果、ずっと食べていた。娘のために連れてきた、「いちねんせいえほん」と「ちいかわ漫画」は、ヒットはしたが、15分の勤務だけであとはぐっすり眠っていた。
我が家の旅に必要なのは、空っぽの胃袋と、どっさりの食料だ。あとは、尽きない代謝。非日常は、磨いてきた日常の分だけ、ちゃんとまぶしい。でも、ひとくちぼれしたあの白ワインは、毎日お目にかかりたいほど、おいしい。たぶん、しばらく引きずる。

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