5歳クリスマス。にやけは終始こぼれ落ち、王者獅子座の風格は影も形もなかった。

食べる少女たち

私に似た気質のようで、娘は5年半という人生の中で何かに「ハマる」といった、いわゆる「夢中状態」「本気ゾーン」のような、両足どころか腰まで浸かっていますという状況になったことがない。幅広くあれこれ好きで定まらぬまま来ているので、例えば幼稚園で使う水筒やお弁当箱など、年単位で使うような備品は私が長らく好きなミッフィーちゃんでだいたい統一している。娘もどのくらい好きなのかはわからないけれど、「ミッヒーちゃんかわいい。ミッヒーちゃん好き」と言ってくれるので、一応好きゾーンの中には入っているようだ。私は私で、長らく好きと言っても、ミッフィーちゃんグッズをめちゃめちゃ集めているとか、街中でミッフィーちゃんを見つけたら飛んで飛びついて愛でて軽々理性を超えるみたいなことは全然ない。鼻とお口だというばってん印を見れば「かわいいな…」という気持ちはむくむく登場するのだけれど、私の言動はいたって静閑で、しずしずと素通りできるようなレベルだから結局軽率に愛着が湧いている。そういうハマりきれないところを娘がきっちり受け継いでおり、周りのお友だちがプリキュアやサンリオのクロミちゃんに湧き立つ中、もちろん少なからず影響は受けているものの、3日としないうちに鮮やかに消滅していたりする。そしてこれはキャラクターだけにとどまらず遊びに対してもおんなじで、物怖じせずわりと意欲的にあちこち声はかけてみるのだけれど結局誰のことも選ばない。さっぱりしている。飽き性ともちょっと違うような、基本姿勢が誠にライトというか、でもそれでいて「そうてぃんちゃんはね、プリキュア大好き!シナモロール大好き!ブランコ大好き!」とまたライトに口にするから、大好きで大好きでもはや住所は沼ですくらいの真剣さで生きている人たちが聞いたら怒られまっせと時々思ってしまう。
と、ハマるものないです、ハマらない体質ですとさんざん話してきたのだけれど、そんな娘にも唯一揺るぎない「好き」があって、それが「食べ物」だ。「食べること」だ。
クリスマス1ヶ月前。「サンタさんのプレゼント、お菓子とクロミちゃんのぬいぐるみにしようかな〜」と、朝身支度をする母のもとへふらっと来てさらっと言い去って行くから、そうかいそうかいとお菓子はスーパーで見繕うとして、クロミはAmazonでこっそり見てみるとかわいいのがたくさんあって、ぬいぐるみ好きな私は胸をときめかす。大きい方が迫力があっていいかなと思ったのだが、最近はお出かけの時にちっこいぬいぐるみを持ち歩きたがるからほどよいサイズのぬいさんにしようと目星をつけ、1週間前になったら注文するべく予定に入れる。ところがそれからちょっと経つと、「あのさ、サンタさんにお願いするのリカちゃん人形にする」と言い出して、クロミのぬいさんはいいのか?と一瞬よぎったけれど、確かにネネちゃん人形のお世話に最近勤しんでいるから家族を増やすのは良いかもしれないとうなずく。とはいえリカちゃんはリカちゃんでもいろいろあるぞと思い、「じゃあサンタさんにこんなリカちゃんがいいですってお手紙書くために見てみよう」と一緒にAmazonを巡って、雑誌VERYとコラボした花柄の白ワンピースに大きな黒リボンカチューシャをつけたリカちゃんに心を決めた。「かわいい!ほんとにかわいい!楽しみ!」と娘は期待にみっちり胸を膨らませ、サンタは極秘ミッションに襟を正しそっとほしい物リストに追加する。ところがところが、またしばらくして、「あのさ、タブレットにしようかなあ」と、ちょっとした学習系のタブレットがいいと言い出したから調べてみると、思いのほかいいお値段で、「しようかなあ」くらいの温度感では買えぬぞとやや口を尖らせ説く。そもそもリカちゃん人形はいいのかと尋ねると、「うーん」となんだか煮え切らない。迷うのはわかるが本当に欲しい物を頼まないとサンタさんも悲しむだろうと伝えると、次の日、「ねーえ?シナモロールの携帯がいい」と言うのでなぜかと聞くと、どうやら幼稚園でお友だちから情報をキャッチしたようで、それはもうお友だちが欲しいものではないか。心変わりが悪いことだとは思わないけれど、それにしても思いつきが過ぎるな…?と思い、「本当に欲しい物がないなら無理に頼まなくていんだよ」と諭すとしばらく考えて、「ないからお菓子だけにする」と、やや寂しさを含む、けれどもすかっとした顔つきになって、迷いなく「おかしをおねがいします。たのしみにしています」と力強くサンタへ書き綴った。
結果、娘はサンタから届いたお菓子にめいっぱい興奮し、にやけは終始こぼれ落ち、王者獅子座の風格は影も形もなかった。娘の「食」への関心は日頃からよく理解していたつもりだったけれど、全く甘かった。年に1度、特別にサンタが届けてくれるチャンスだとてそこは揺るぎない。私自身も食べ物への関心は高いし、昔から食べ物モチーフのキャラクターや雑貨を見てははしゃいでしまうようなタイプではあるけれど、サンタにはしっかりおもちゃを頼んだ。

ハマるものがなくても、のうのうと迷い続けても、サンタへの手紙が「おかしをおねがいします」で確定する人生がある。ぬいぐるみはさもなかったかのように流れ、人形は歯切れ悪く見送られ、タブレットは価格表の向こう側へ消えて、最後に残ったのは圧倒的なお菓子であった。王者獅子座は食の前ではまんまと正直で、その顔はもはや王というより食に忠誠を誓った一般人である。
もしかすると、立派なプレゼントを贈ってあげたくて、「ちゃんとしたプレゼント」を選ばせようとしていた自分が1番欲張っていたのかもしれない。欲張りだったのは私で、1番正直だったのは最初から娘の方であったと気付く、2025年クリスマス。

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