見当違いな反抗期

母と反抗期の娘

それは突然やってきた。

何か言うと、一言目には「やだ」と答えるやだやだマン。

「手洗おうー」「やだ」
「幼稚園に行くから片付けよー」「やだ」
「お風呂の時間だよー」「やだ、はいんない」

食い気味に来るから、余計に気に障る。
イヤイヤ期の「イヤ」とは違う、ちょっと悪意を含んでる感じ。


最初は驚きの方が強くて、「え!なんで!?」みたいな、ママびっくりよ的な受け答えになっていたけれど、日に日に「わたち、すべてをひていします」オーラが出てきて、ギリギリで保っていた仏の顔は剥ぎ取られた。

「やだやだばっかり言わないでよ!じゃあママもご飯作るのやだ!」
「や゛あ゛ーーだーーーーーー!」

突き返されることが続くと、こっちも言葉が強くなってしまう。
おまけに泣きっぱなしなもんだから、結構堪えた。


これはもしや反抗期か…?
慌てて「3歳 反抗期」と検索すると、
・自立心が強くなり、ご両親や周囲の大人に対して反抗的な態度をとることも多くなります
・これじゃなきゃやだ!イヤなもんはイヤ!の一点張り
と、今の娘そのものが書かれていた。

そしてどうやら3歳は、魔の第一次反抗期と呼ばれる時期だとわかった。


反抗期…3歳で反抗期…
イヤイヤ期が終わったと思ったら反抗期…

状況を飲み込みたくない、だけど飲み込むしかない状況に、ぶつぶつとつぶやくしかなかった。



気が付いたら、2週間くらいはほぼ毎日怒鳴っていた。
血管が切れるのが先か、ハゲるのが先か。
それすらどっちでもいいやと思うほどには参っていた。

娘の態度は反抗期を越え、もはや人が変わってしまったと言う方がしっくりきた。
娘から見た私の姿も、そう映っていたかもしれない。


星占いによれば、娘は「意思の星座」と言われる獅子座で、私は「感情の星座」と言われる蟹座。
なんかもう聞いただけでぶつかりそうだなーって感じしまくりなのだが、本当に、お互い100%攻めの体勢になったら、もはや大戦争。

1番ひどい時は、幼稚園に行く直前で大喧嘩になり、2人とも声を枯らすほど吠え、初めて仲直りできないまま登園したこともあった。

散らかしたおもちゃを片付けなかったことで、私が怒ったのだ。
どうやら私は、片付けに対して異常な執着があるようで、大抵この場面でいつも怒っている。
理由はいくつもありそうだけれど、1番は「娘と私の約束事だから」だと踏んでいる。


それはさておいて、泣き腫らした顔の娘と、マスクから死んだ目を覗かせた私の顔を見て、先生は何を思ったんだろう。
「朝からいろいろあって…こんなんで本当にすみません」と、これまた死にそうな声でぼそぼそしゃべる私に、呆れただろうか。
「お母さんも大変でしたね」の一言に、情けなさと、寄り添われる安心感と、もうとにかく泣きたくなって、へなへなと膝をつきそうになるのを堪え、「いえ、あの、すみません。よろしくお願いします」と足早にその場を立ち去った。

自分よりはるかに若い先生に気を遣わせてしまった恥ずかしさが徐々にやってきて、私の顔は沸騰していた。


みんな、大喧嘩した時どうしてるんだろう。
そういえば、明らかに何かあったらしい雰囲気の親子を、私は見たことがない。
世の中の家族はみんな平和なのだろうか。
いや、なんとか仲直りしたり、水に流したり、どうにかこうにかいつも通りで来ているはずだ。

それができない私は、一体なんなんだろう。
自問自答を繰り返しながら、寒空の下を走った。
こんなに近くですれ違う同じお母さんなのに、とてつもなく遠い存在に思えた。


家に戻ると、いつもはちゃきっと切り替えて、よし仕事頑張ろう!となるのが、この時はただただ不安だった。
娘は本当に変わってしまったのか。こんな毎日がいつまで続くのか。
考えれば考えるほど仕事が手につかなかった。


緊張しながら迎えに行くと、何事もなかったかのようにけろっとしていて、拍子抜けした。けれど、だから逆に私の消化不良が浮き彫りになった。
何か話さなければと思うのに、何をどう話せばいいかわからなくて、気付けば怒ってしまったことをひたすら謝っていた。
すると、「〇〇ちゃんもおこっちゃってごめんよ。おかたづけしなくってごめんよ」とよしよししてくれた。
受け止めてもらえたらほっとして、ぼろぼろ泣いた。
「ママなきすぎよ!ほらティッシュでふいたげる」
娘の心は変わらず温もっていて、心の底から安堵した。

そして私は、魔の第一次反抗期を、きっと、いや、立派に乗り越えてみせる!と心に誓ったのだった。
「ママ、反抗期でもまるごと愛すからね!」



久しぶりに満たされたからか、その日は2人ともよく眠った。
娘は珍しく大きないびきをかきながら、夕方5時から、朝の5時半まで泥のように眠り、すっきりとした顔で起きてきた。
それが、本当にもう、それはそれはすっきりだったのです。


まことにお恥ずかしい限りなのだが、娘の第一次反抗期、だと思っていたものは、実はただの睡眠不足だった。


やめ時を逃し半ば仕方なく続けていてぴよログに、ここ半月以上に渡って睡眠時間が激減していた証拠が残っていた。
平均10時間以上寝ていたところ、8時間くらいしか寝られていなかったのである。
そもそも3歳の理想的睡眠時間は10〜13時間だから、あまりに足りていない。

そういえばここの所、怖い夢でも見たのか夜中に突然MAXの大泣きを炸裂させたり、おしっこしたい!と飛び起きたりすることが多かった。(まだオムツなのだが…)
そのくせ朝5時から元気に活動し出すこともあって、睡眠時間は少しずつ減っていったようである。


私も娘も習慣を重んじるタイプなので、布団に入る時間が大幅に遅くなることはほとんどない。
娘は小さい頃から(今もまだ3歳だが) 体内時計がしっかりしているというか、疲れに敏感というか、決まって夜7時半〜8時には「ねむい」と自分で布団に入る。
だからか、睡眠時間が減ったことに気付かなかった。
早寝おっけー!早起きおっけー!むしろ良いサイクルだなあなんて思っていた。
習慣は崩しちゃいけないという信念が、無意識に働いていたのかもしれない。


まるで足元が見えていなかった。
胸を熱くした、あの涙の誓いは一体なんだったのか。
思い込みとは恐ろしい。そして習慣好きも時に厄介だと教わった。


6時半〜翌6時半の12時間睡眠がデフォルトになった娘は、毎日ピカピカの笑顔で穏やかに過ごしている。
例の「やだ!」は時々あるけれど、「あっやだじゃないか。ふへへへ」と、ノリツッコミする技をいつの間にか身に付けていた。
こうしてあっけなく、我が家に平和が戻ってきたのでした。
ああ、平和って素晴らしいなあ。

母と反抗期の娘

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